追い かけっこ キャッハー。 【フリーBGM】追いかけっこキャッハー【11歳の耳コピピアノ】

追いかけっこキャッハー

追い かけっこ キャッハー

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追いかけっこキャッハー

追い かけっこ キャッハー

「box猫」 阿部晃延 ボクはいつからここにいるのだろうか? 外は11月の冷たい風にさらされている。 時折吹く強い風が木々を強く揺さぶっている。 ボクはサークル棟の2階の窓のそばの陽だまりにうずくまって外を眺めながら、ふとそんなことを考えた。 ボクが物心ついたときには、確か、いわゆる普通の家庭にいたように思う。 暖かい部屋で母さんからミルクを飲ませてもらうのが唯一の日課だった。 最初は、兄弟が5人ほどいたように思う。 でも、1人、また1人と彼らはどこかへ連れて行かれてしまった。 そして、ボクともう一人が残った。 そんな次の日、忘れもしないあの日がやってきた。 その日は、春といってもまだ時折冷たい風が吹き付けるような日だった。 まだ日も昇らない早朝に、僕はぐっすり眠ったまま車に乗せられた。 そしてここに連れて来られた。 ここに着くころには日も昇っていて、日の光が大気をほのかに暖かくしていた。 ボクは車から出してもらった。 ボクにとっては、初めての外の世界だった。 今までは、家の窓ガラス越しに眺めていただけの草や木や花や土がそこには直にあった。 ボクはあまりのうれしさに無我夢中で走り回った。 土を踏んだらこんな感触がするんだ。 花はこんな匂いがするんだ。 木はこんなに高いんだ。 すべてが初めての体験だった。 そしてボクは、ここにつれてきてくれた喜びに声をあげながら振り返った。 そのときボクの目に映ったのは、走り去ってゆく車と道端に置かれたダンボールと古びれた毛布。 そう、ボクはその日、捨てられたのだ。 そういえば、まだ自己紹介をしていなかったようだ。 ボクはネコだ。 雪のような白地に、そこに当たる陽光を背に帯びたような・・・といえば聞こえはいいが、いわゆる普通のトラネコだ。 あと、鼻についた茶色のぶちがボクのトレードマークだ。 ボクはD大のサークル棟というところに住んでいる。 主な日課は、そこにいる人たちにえさをもらうことと気ままに散歩することぐらいだ。 話を過去に戻そう。 D大は山の上にあって、そこまではエスカレーターが山沿いに設置されている。 ボクが捨てられたのは、そのエスカレーターとエスカレーターの間の小さな広場だった。 走り去ってゆく車を最後まで見送ったとき、ボクの背後に複数の気配がした。 振り返るとそこには5,6匹の猫たちがいた。 彼らは、1匹だけが銀色で、後は皆黒ばかりだった。 どうやら、銀色がその群れのリーダーのようだった。 そして、その銀色がおもむろに口を開いた。 「おまえも捨てられたみたいやな。 悪いけどここは俺らの縄張りやねん。 こどもやからって容赦できへん。 とっとと出てってや。 」 銀色は笑顔でそう言ったが、その目だけはとても笑っているようには見えなかった。 ボクは初めて会う他人にドキドキしながらも、もしかしたら助けてもらえるかもしれないと期待していただけに、その言葉はかなりつらく思えた。 そんなボクの気持ちを知ってか知らないでか、 「この山に住めばいろんな人がえさをくれるから飢えることはないさ。 だから上の方にに行くといい。 でもこの辺りはデブ銀一家の縄張りだから決して荒らすんじゃないよ。 」 人の、いや、ネコの良さそうな1匹の黒がそう教えてくれた。 銀色はデブ銀という名前らしかった。 そういえばここの猫たちは皆丸々と太っている。 飢えることがないというのも間違いないようだ。 ボクは縄張りに入ったことを詫びて、広場を後にした。 頂上へと続く階段は果てしなく続いているように思われた。 ただ、エスカレーターに乗るのはさすがの怖かったので、一段一段がんばって階段を上ることにした。 途中何度もくじけそうになったが、ここにいるとあのデブ銀一家が追いかけてくることがわかっていたので、ひたすら歩みを進めた。 やっとの思いで頂上まで着くと、あまりの疲労のためボクはそのままへたり込んでしまった。 そして、そこはデブ銀一家の縄張りではないようだったので、とりあえずここで休憩することにした。 そこはだだっ広く、不自然な自然がなんとも印象的だった。 休みながら、ボクはほかの兄弟のこと、母さんのこと、捨てていった飼い主のこと、これからのことなどいろいろ考えることにした。 兄弟もあんなふうに捨てられたのだろうか。 いや、そうではないようだ。 兄弟が連れて行かれたのは、決まって昼間だったし、知らない人の車に乗せられたりしていたからだ。 どうやらいろんなところにもらわれていって、最後に残ったのがボクともう一人だったのだろう。 そしてそのうちのボクが捨てられ、もう一人はあの家で飼われるのだろう。 どうして僕が選ばれたんだろう? そうこうするうちに、朝日もだいぶ昇ってきて、何人かの人が山を登って建物のほうに歩いていった。 そんななかで、ボクがこれからのことを考えようとしたとき、一人の女の人がおもむろにボクのところにきて、「かわいーー」と連発しながらごしごしと頭をなでた。 これでは考えるどころではない。 でもなぜ人は猫の頭をなでたがるんだろう。 そう思いながらも、初めてかまってくれた見ず知らずの人に「ニャーニャーー」と愛嬌をふるった。 すると彼女は、かばんの中からなにやら箱のようなものを取り出して、そのなかから変な棒を1本つまんでボクの前に置いてくれた。 どうやらそれは食べ物らしい。 後で知ったことだが、箱は弁当箱というもので、その棒はソーセージというものだった。 もちろんそのときのボクはそんなもの見たこともないし、ましてや食べたことなんかなかった。 かなり警戒してから、おそるおそるそれをなめてみた。 どうやら「ニク」らしい。 母さんが似たようなものを食べてたような気がする。 そしてそれ以上にボクのおなかがそれを食べるよう訴えていた。 そういえば、昨日の晩に母さんからミルクをもらったっきり何も口にしていなかった。 ボクは勇気を出してそれをかじってみた。 それは口の中でなんともいえない味をかもし出した。 そしてがつがつと食べ終えると、おなかに収まって、ぐっと元気が沸いた。 ほっと一息つくと、彼女はそれを待っていたかのようにボクを抱え上げた。 彼女の腕の中は暖かく、柔らかかったので、ボクはいつのまにかうとうとと眠ってしまった。 どのくらい寝ていたのだろうか、ボクは彼女に地面に降ろされて目が覚めた。 そこは、さっきのところよりまだ広く、ボクはその煉瓦造りの地面に降ろされたのだ。 「ここで友達と一緒に暮らしねーー」 と、彼女は言った。 僕はもしかしたら彼女がボクを飼ってくれるんじゃないかと思っていたのを残念に思いながら、あることに気づいていた。 それはさっきのデブ銀一家のところで感じたような複数のネコの視線であり、またそれが好意的とは言いがたいものだ、ということだ。 そしてボクは知っていた。 すぐに逃げ出すべきことを。 しかし、猫たちは彼女がいる前では手を出そうとはせず、愛想笑いを浮かべながらボクと彼女に近づいてきた。 どうやらここの猫たちは皆うその笑顔が得意らしい。 また、人間たちは皆この笑顔と「ニャー」という猫なで声にだまされやすいようだ。 実際彼女も、 「早速友達が来てくれたね、仲良くできそうでよかったね。 」 と、しっかりだまされていた。 僕は猫たちに負けないような愛想笑いを浮かべながら、彼女がほかのネコに注意をそらしたすきに、一目散に逃げ出した。 猫たちは彼女の手前、僕を追いかけることができなかったようだ。 それでもボクは心臓が破裂してしまうほど一生懸命駆けに駆けた。 どうやらこの山に住む猫たちは群れを作って縄張りのなかで生活しているものが多いようだ。 それだけ生存競争が厳しいのかもしれない。 そんなことを考えながら、彼らの縄張りを抜けたようなのでボクはゆっくりと歩き始めた。 少し行くと、1人の年老いたネコが気持ちよさそうに惰眠をむさぼっていた。 ボクは少し警戒しながら彼に近づくと、老猫はそれに気づいてゆっくりと目を開けた。 ボクはさっきから怖いネコばかりに会ってきたので、ちょっと怖いかなと思ったが、その猫のなんともいえないイイヒトオーラに吸い寄せられていった。 すると老猫はボクを見ながら、 「ほっほー。 これはまた見かけん顔じゃナ。 どうやら今日ここに着いたばかりのようじゃ。 息を切らしているところをみると学生課前のぶっちの縄張りに入って追い立てられたのじゃろ。 ここは誰の縄張りではないから少し休んでいきなさい。 その間にここで生きるコツみたいなものを教えてあげよう。 」 と言ってくれた。 ボクはその言葉を聞いてその場に座り込んでしまった。 そして少ししてから、 「ここは皆が縄張りを持って生きているようです。 ボクはどうやって生きればいいんでしょう?」 と聞いた。 老猫は、 「それは自分で決めなしゃい。 ただ、少し縄張りの事を教えといてやろう。 この大学には大きな縄張りを持つ群れが3つある。 1つはさっきの学生課前のぶっちの群れ。 1つはエスカレーターのところのデブ銀一家の群れ。 1つはB棟付近にある黒猫兄弟の群れじゃ。 そこ以外ならどこに住んでもいいんじゃが、そうじゃの、お前さんはまだ屋外で生きるには幼すぎるから、サークル棟に行ってみてはどうじゃ。 」 その後もボクは老猫にいろいろなことを聞いた。 この大学のこと、ここにいる人たちのこと、サークル棟のこと、どうしたらうまくえさをもらえるかということ。 聞くことは山ほどあった。 老猫はその一つ一つを丁寧に教えてくれた。 さすがに人生経験豊富な彼は知識もまた豊富だった。 多くのことを学んでから、ボクはじじいに(そう呼ばれているらしい)にサークル棟に連れて行ってもらった。 サークル棟の前でじじいは、 「ここから先は自分で行きんしゃい。 まあがんばって生きるこった。 たまにはわしのところにも顔を出しな。 」 と、言ってくれた。 僕はじじいにお礼を言って別れた。 サークル棟は2階建てで門がなぜか2つあった。 いたって平凡な建物で、周りには何もなかった。 じじいが言うには、ここには住んでいるような人もいるらしく、ほかの場所より週末や休みの日でも人の出入りが絶えないので、食べ物に困ることはないし、建物の中で暮らしていても誰にも何にも言われないので雨風もしのげる、ということだった。 実はじじいも捨てられて大学に来た当初はここに住んでいたらしい。 じじいはどうしてここに住むのをやめたんだろう? サークル棟に着いたボクだったが、なかなか中に入ることができなかった。 というのも、ドアが閉まっていて、ボクの力ではどうしようもなかったからだ。 そうして、ドアの前でおろおろしていると、通りかかった男の人がボクを抱え上げて、そのまま中に入ってくれた。 どうも親切な人が多いようだ。 彼は入り口のところでボクを下ろすと階段のほうへ歩き出した。 僕は彼に付いていくことにした。 彼は2階に上がって、角を曲がって二番目の部屋に入ろうとした。 すかさずボクは開かれたドアの間をすり抜けて中に入った。 その瞬間だった。 僕は首をつかまれて外に放り出された。 少し経つまでボクは何が起こったかわからなかった。 とりあえずボクはその近くにあったビニールと鉄パイプでできた安っぽいソファの上に座った。 どうしてボクは放り出されたんだろう? おいしそうな匂いに物思いは中断を余儀なくされてしまった。 外は相変わらず11月の風が吹きすさんでいる。 ボクの隣でニコニコしながらキャットフードの缶詰をせっせと開けている男がいる。 彼はボクの飼い主の一人だ。 ボクはここで何人かの飼い主を見つけた。 彼らはボクをそれぞれが思い思いの名で呼ぶ。 ボクは飼い主ごとに彼らが好むように自分の性格を使い分けている。 あるいは人なつっこい猫、あるいはクールな猫、あるいはぐうたらな猫、といったようにだ。 どれが本当の自分なんだろう?それともどれも本当の自分じゃないのかもしれない。 なぜこんな風に考えるようになったのかというと、ある夏の日に、じじいを訪ねてどうしてサークル棟に住むのを止めたのか聞いたとき、じじいに変な答えをもらったからだった。 じじいは、 「いずれお前もわかる日が来るじゃろうて。 ただ自分と言うものを決して見失うんじゃないよ。 自分を見失ったらお前は猫であって猫でなくなるんだよ。 」 と、言った。 どういう意味なのか聞こうとしても、そのままじじいは寝てしまって、何も答えてはくれなかった。 そんなじじいも今はもういない。 あれから何日かしてじじいのところに行ったときには、じじいは姿を消してしまっていた。 どこを探してもじじいは見つからなかった。 今思うと、じじいはボクに会うのが最後だと知っていたからあんなことを話してくれたのかも知れない。 それから幾日も月日は流れた。 それからのボクにはいろんなことが起こった。 酔っ払った人にアルコール入りのキャットフードを食べさせられて二日酔いになったり、正月休でサークル棟が締め切られてどこにも出られず飢え死にしそうになったり。 そんなこんなでボクがここに来て一年になろうとしていたある日のこと。 その日は、ボクがここに来た日と同じような、春といってもまだ時折冷たい風が吹きつけるような日だった。 まだ日も昇らない早朝に、ボクは作業服を着たおじさんにえさをもらった。 眠い目をこすりながらボクはえさを食べた。 どんなときでもくれたえさはしっかり残さず食べておく。 これがここで生きるために必要なことだった。 だがその日は少し違った。 えさを食べれば食べるほどボクは睡魔の誘惑に勝てなくなってしまった。 ボクはおじさんに抱えられるのを感じながら深い眠りに落ちてしまった。 目が覚めると、ボクは車に乗せられた檻の中に入れられていた。 そこには、デブ銀やその群れにいた親切な黒やほかにも何匹かの猫が入れられていて、皆しょげこんでいた。 車が動き出した。 皆何も言わずうつむいている。 どうやらどこに連れて行かれるのか知っているようだった。 」 「どーも、無理いってすみません、先輩。 」 高橋圭介が研修医として勤務している病院のロビーで、圭介の大学時代の後輩である五十嵐かおるは、圭介と待ち合わせていた。 「いいよいいよ。 もうすぐ主治医の先生が来るから、座って待ってて。 」 「はい。 」 「先生こちらです。 」 黒服の上に白衣をラフにまとった辻 薫が、廊下をゆっくりとけだるそうに歩いてきた。 「いちいちそんな大きな声を出さなくても聞こえている。 」 「どうも。 お忙しいところすみません。 私、五十嵐といいます。 」 そう言って名刺を差し出した。 「どうも。 波田伊吹の担当医の辻です。 ・・・ほう、フリーライターねぇ。 で、フリーライターのあなたが、波田伊吹に何の御用ですか。 」 「はい。 今回ある週刊誌の特集記事のために、伊吹さんの病院生活をドキュメントで取り上げたいと思いまして、それで取材に。 」 「あなたは、波田伊吹の病状をご存知ですか?高橋さん彼女のカルテを。 」 「はい。 」圭介はあらかじめ用意していたカルテを差し出した。 「確かに今は安定しているが、いつ病状が悪化するかわからない。 もしそうなれば彼女はおしまいだ。 それに彼女は誰にも心を開こうとはしない。 そんなクランケを取材させるわけには・・・。 」 「先生のおっしゃることはわかります。 ですが、彼女が心を閉ざしているからこそ取材したいんです。 彼女がこの病院で感じていること、思っていることを世間に知らせたいんです。 」 「知らせてどうするんですか?」 「彼女の夢を語ってあげたいんです。 心を閉ざしてはいても、その中には愛や希望がいっぱいにあふれているはず。 何たって十三歳の女の子ですもの。 」 辻は舞い上がっている五十嵐の姿に怒りを覚え、その場を立ち去ろうとした。 「先生!かおるの言うことも少しは聞いてやってください。 」 圭介が「かおる」という名前を言った瞬間立ち止まり、振り返って言った。 「かおる?あなた五十嵐かおるさんとおっしゃる?」 「はい」 「そう、五十嵐かおるさん、はっはっは・・・。 」 辻は不適な笑みを浮かべた。 「なにがおかしいんですか?」 不思議そうに、そして不愉快な気持ちを隠せない表情で五十嵐がそう言うと、辻は急に淡々とした口調で話し始めた。 「いえいえ、わたしも「辻 薫」というものですから・・・。 ところで高橋さん。 さっき「かおる」なんて呼び捨てにしてたけど、彼女とは・・・」 「大学の後輩です。 」 「ということはあなたも医学部を?」 「はい。 」 「なら話は別だ。 高橋さんの後輩だし、医学部出身ということは、まんざら素人でもなさそうだ。 わかりました。 特別に許可します。 」 「ありがとうございます。 」 五十嵐と圭介は深ぶかと頭を下げた。 「但し、絶対にクランケを刺激しないでくださいよ。 」 「はい。 わかってます。 」 「じゃ、わたしは仕事に戻りますので、失礼。 」 そう言うと辻は足早に去ろうとしたが、険しい顔をして振り返った。 「あっそれと、あなたさっき、クランケの夢を語りたいっておっしゃってましたけど・・・。 病院においてクランケの夢なんてない。 あるのは、病気との闘いだけだ。 」 夢や愛など、偽善者じみたことを並べている五十嵐の思想とは正反対の思想を持った辻には、五十嵐の考え方が気に入らなかった。 それを察した五十嵐を見た圭介は、彼女の気持ちをなだめるように言った。 「まぁ、あれで腕は抜群だからな。 さっ、とりあえず病院を一回りしてから、波田さんの病室に案内するよ。 」 「はい。 」 五十嵐は、圭介の慰めに安堵し、すぐに笑顔に戻った。 2 波田伊吹の担当の看護婦が、朝のバイタルチェックのために伊吹の病室に入ってきた。 伊吹はカーテンを閉めたままの窓辺に車椅子を寄せ、遠い眼をして座っていた。 「あっだめですよ、波田さん。 ベッドにはいってなくちゃ。 」 「・・・。 」 「さっ、ゆっくり入って。 カーテンも閉めてないで、朝の光をいれましょう。 見て、今日もとってもいい天気よ。 」 看護婦は笑顔で伊吹に話し掛けるが、何の反応も示さない伊吹に落胆し、ため息をついた。 「おはようございます。 」 圭介が五十嵐を連れて病室に入ってきた。 「おはようございます、圭介先生。 じゃ、あとよろしくお願いします。 」 「はい、お疲れ様でした。 おはよう伊吹ちゃん。 」 「・・・。 」 「今日はね。 伊吹ちゃんに会いたいって人が来てるんだ。 フリーライターの五十嵐かおるさん。 伊吹ちゃんのことを取材したいんだって。 」 「初めまして。 伊吹ちゃん。 よろしく。 」 五十嵐は、伊吹に向かって握手を求めるために手を差し出したが、伊吹はそっぽを向いた。 「あっそうだ。 伊吹ちゃん、もうすぐ回診の時間だから体温と脈拍を測らなくっちゃ。 さっ、手をだして。 はい、脈拍・・・七二。 じゃ、体温測って。 今日はいい天気だし、庭を散歩しようか。 」 「・・・。 」 「はい。 三十六度八分っと。 」 「回診です。 」 辻が看護婦とともにポケットに片手を突っ込んで回診にきた。 そして五十嵐を一瞥して言った。 「おや、あなたもいらっしゃったんですか。 」 「はい。 早く彼女に会いたかったものですから。 」 「そう。 高橋さん、クランケの今朝の体温は?」 「三十六度八分です。 」 「脈拍」 「七二です。 」 「そう。 ・・・異常はないな。 すこし熱が高いか。 おい君、薬に少し、アセトアミノフェン入れといて。 」 看護婦にそう指示すると、「クランケを刺激しないように」と念を押し、看護婦にドアを開けさせた。 「先生 !」 圭介が辻を呼び止めた。 「あの、今日、伊吹さんに庭を散歩させてあげたいんですが。 」 「・・・まったく。 君はさっき何も聞いていなかったのか?」 「わかってます。 でもたまには外に出て、太陽の光を浴びるのも・・・」 「必要ない!何が太陽の光を浴びるだ。 だからあなたはいつまでたっても半人前なんですよ。 」 「何もそこまでいわなくても。 」 「あなたには関係ない。 それに風も冷たくなっている。 クランケの体に何が起こるかわからない。 少しは考えてものをいって欲しいものですよ。 まったく。 あなたたちはわたしの言うとおりにさえしていればいいんだ。 それがクランケを生かす道だ。 」 「はい。 すみませんでした。 」 そう圭介が誤るのも聞かないうちに辻は病室を出て行った。 「どうして誤ったりするんですか、悔しくないんですか!」 「仕方がないよ。 あの人の言うとおり、僕はまだ半人前だし。 」 「でも・・・。 」 「いいんだ、さあいこう。 」 自分のために腹を立てている五十嵐を見て、圭介は精一杯の作り笑いを見せた。 3 次の日、五十嵐は伊吹のために花束を用意し、圭介とともに病室へ入ってきた。 病室は看護婦の手によってカーテンが開けられているのでかろうじて明るいが、それに反して伊吹の表情はいつものとおり暗かった。 五十嵐は精一杯の笑顔で伊吹に話しかけた。 「伊吹ちゃん、はいお花。 綺麗でしょう。 」 「よかったね、伊吹ちゃん。 ん〜いい匂いがする。 」 伊吹の反応を待ったが、何の反応も示さないため、しばらく沈黙が流れた。 そんな沈黙を嫌って圭介は咄嗟に言った。 「そうだ、伊吹ちゃんりんご食べよっか。 」 「じゃわたし、お花活けてきます。 」 二人がりんごをむき、花をいけ始めようとしたとき、ドアがあいた。 「回診です。 」 看護婦と、辻が足早に入ってきた。 「おや、また今日もいらしてたんですか。 」 五十嵐は不愉快な顔で「はい」と返事をし、圭介は丁寧に挨拶をした。 「高橋さん、クランケの今朝の体温は?」 圭介は、うつむいたまま黙っていた。 「どうした。 早く言いたまえ。 」 「すみません。 まだ測ってません。 」 辻は嘲笑して言った。 「あなた、何しにここにきてるんですか。 あなたが出来るのは体温と脈拍を測るぐらいでしょう。 いや、それもできない能無しか。 」 「違うんです。 圭介先輩が悪いんじゃないんです。 わたしが・・・。 」 圭介をかばう五十嵐の姿を見て辻は「やっぱり・・・」と言いたそうな顔で五十嵐を見た。 「何なんですか。 」五十嵐が言った。 「隠さなくてもいいじゃないですか。 できてるんでしょ、あなたと圭介先輩。 病院中その噂で持ちきりですよ。 偉くなったものですね、高橋さんも」 圭介は、黙って伊吹のほうに近寄り、体温を測るために体温計を取り出した。 辻の言葉が悔しくてたまらなかった。 「いいですよ、診察どころじゃないでしょ。 お忙しい高橋さんは、五十嵐さんもごゆっくり。 」 4 辻は回診の後、精神病棟へ行った。 そこには精神科医である城山玲子がいた。 辻は玲子にだけは心を許していた。 なぜなら、辻の父親藤山吾郎が、この精神病棟にいるからである。 吾郎は二十年前からずっとこの病院にいる。 始めは交通事故で運ばれてきたのだが、入院中に精神を患って、普段はおとなしいが暴れだすと手がつけられない、獣同然の精神状態であった。 当然主治医は玲子だった。 「ノックぐらいしてちょうだいよ、ビックリするじゃない。 」 入ってきても黙っている辻を見て、玲子はクスクスと笑った。 「なにがおかしいんだ。 」 「今日は珍しく嬉しそうね。 」 辻は五十嵐かおるが自分に会いにきたことが、嬉しくてたまらなかった。 何年も探していたからだ。 「あのこのことね。 よかったわね。 」 「ああ。 ところで、あの人は?」 「ええ、とってもいい子。 私の言うことはちゃあんと聞くし。 」 「そうか。 」 そう言って、病室の奥へ行こうとした。 「だめよ、おこしちゃ。 今寝たとこなんだから。 それにあなたじゃ噛み付かれるわ。 ・・・それはそうと、あなた今おもしろいクランケ抱えてるんですって?名前は確か・・・、そうそう、波田伊吹ちゃん。 」 「お前どうしてそれを・・・。 」 「私が知らないとでも思った?大変なんでしょ、彼女。 」 「ああ。 強直性脊髄炎。 背筋の異常収縮により、脊柱が圧迫され、脊髄が炎症を起こし、脊髄神経が正常に機能しなくなる。 」 「本当、珍しい。 今日のあなたってお喋りね。 そのクランケがお気に入りみたい。 」 辻は、伊吹に複雑な思いを抱いていた。 辻が回診するとき伊吹はいつも辻のほうを見ているからである。 その純真無垢な視線の置くに、辻は何か重いものを感じていた。 それが何なのか辻自身理解してはいなかった。 そんな気持ちを玲子に見透かされたのに気づき、平静を装った。 「・・・俺は仕事に戻る。 」 「そう、がんばってね、薫先生。 」 玲子はそんな辻の姿をおもしろがっていた。 5 五十嵐は伊吹に会うためにに病室の前に立った。 伊吹とのコミュニケーションが成り立たないとわかっていても、いつかは心を開いてくれると信じ、とにかく何かを話そうと思っていた。 ドアの前で「よしっ」と自分に言い聞かせ、中に入った。 「いーぶきちゃん。 今日は一人で来ちゃった。 そんな、ずーっとベッドのなかにいないで、散歩でもしない?私が車椅子押すからさ・・ってわけにもいかないか。 そんなことしたらまた、薫先生に怒られちゃうもんね。 悔しいなぁ。 こんなに晴れてるのに。 」 窓の外見ながら、伊吹の様子をうかがった。 しかし何も返事がなく、ずっとうつむいたままであった。 「ねぇ。 伊吹ちゃんの「伊吹」ってとってもいい名前だね。 お父さんが付けてくれたの?それともお母さん?私の「かおる」っていうのはね、父さんがつけてくれたんだ。 って言っても、父さんは私が小さいころ死んじゃって、顔も覚えてないけど。 だから家は母さんと二人っきり。 母さん女手ひとつで私を大学の医学部にまで入れてくれて・・・、そこで圭介先輩ともであったんだ。 だけど、私にはもうひとつ夢があったの。 お医者さんってあんまり向いてなかったし、それよりも、自分の書いた文章で人を感動させたくって、大学も結局やめちゃった。 そしたら母さん怒るどころか、お前がやりたいことをやりなさいって、許してくれたんだ。 その母さんも去年死んじゃったけどね。 ・・・母さんのためにも、これからもずーっとこの仕事続けようと思う。 いろんな人の夢を語っていこうって。 伊吹ちゃんの夢も・・・。 」 五十嵐は祈るように伊吹を見つめたが、伊吹はそっぽを向いた。 「あっ、ごめん。 なんか私の身の上話になっちゃったね。 もうこんな時間。 じゃあ、きょうは帰るね。 また来るから。 」 精一杯の作り笑いでそういって、五十嵐は病室を出て行った。 6 病室を出てしばらく行ったところに、患者が集まって、テレビを見たり話をしたりできる空間がある。 そこではよく、噂好きの主婦と見受けられる患者たちが、病院内の噂話をしている。 この日もその集いは行われていた。 五十嵐がその前を通ったとき、たまたま伊吹の話をしていた。 「・・・ああ、205号室の、・・・おとなしそうなかわいらしい子みたいだけど・・・」 「あの子も大変なのよ。 何でもすごい病気らしくってね。 病室に閉じこもりっきりで。 なのに、親もお金出すだけで見舞いにも来ないらしくって・・・。 かわいそうなのよ。 」 五十嵐はその会話の内容に驚いて、主婦たちの輪に近づいて言った。 「そうなんですか。 ・・・私悪いことしちゃった。 ご両親のこととか・・・。 伊吹ちゃん気を悪くしちゃったかな。 」 「おんなじよ。 どうせあの子、誰とも口聞かないんだから。 」 噂話のついでに五十嵐はどうしても聞きたかったことがあった。 それは、お世辞にも人気があるとはいえない辻のことを、患者たちはどうして親しげに「薫先生」と呼ぶのかということだ。 五十嵐はここぞとばかりに聞いてみた。 しかし、なぜかということはわからなかった。 彼らが知っていることは「辻先生」と呼ぶと嫌がるという理由だけであった。 7 今日もいつもと同じ朝を迎えた。 五十嵐と圭介は毎日伊吹のところに通い必死に話そうとするが、伊吹は相変わらず話そうとしない。 しかし回診の時間になると伊吹は心ばかりそわそわしている。 圭介はその様子にずいぶん前から気づいていたが、なぜなのかわからなかった。 「回診です」という看護婦の声と共にドアが開かれ、辻と看護婦が入ってきた。 ベッドに近寄ると圭介にバイタルを尋ね、伊吹の眼の様子をチェックし、異常がないことを確かめた。 「よし。 特に異常はないようだな。 」 「お疲れ様でした」 「高橋さんこそお疲れ様。 やっと体温と脈拍の測り方を覚えたようですね。 あなたも半人前の恋人を抱えて大変ですねぇ、五十嵐さん。 」 その言葉にムカッときた五十嵐は咄嗟に、「辻先生こそお疲れ様です。 」と返した。 すると突然すごい剣幕で怒鳴った。 「苗字で呼ぶのはよせ!」 「すみません。 ・・・でもどうして薫って名前で・・・。 」 「もうよせよ。 すみませんでした。 さあ、行こう。 かおる。 」 圭介と五十嵐は病室を出て行った。 伊吹はその間じっと辻のほうを見ていた。 その視線に気づいた辻は伊吹のほうを見返した。 「どうして、いつも俺を見ている。 」 そう伊吹に話し掛けた。 伊吹はなにも答えすらしないが、辻に向かって少しの微笑を投げかけた。 辻はその表情に気づき、慌てて眼をそらして病室から逃げるように去っていった。 8 伊吹に微笑みかけられた複雑な気持ちのまま、玲子と父親のいる精神病棟へ行った。 辻のいつもと違う様子に気づいた玲子は不思議そうな顔をして言った。 「どうしたの、今日はご機嫌斜めじゃない。 」 「そんなことはない。 」 慌てて取り繕う辻のほうをじっと見て、その真意を確かめるように辻の顔を覗き込んだ。 辻は少し間を置いて口を開いた。 「・・・あのクランケのことだ。 」 「ああ、伊吹ちゃん。 相当ご執心ね。 」 「そんなんじゃない。 ・・・あのクランケに新しい治療法を施してみるつもりだ。 」 「新しい治療法?」 辻はずいぶん前から伊吹の病気に対する新しい治療法を研究していた。 それはかなりの苦痛を伴うもので、ほかの医者からはあまり歓迎されてはいなかった。 しかし辻は伊吹にその治療を施すことに決めた。 失敗を恐れてはいながらも、伊吹でなければ実行することが出来ないとも思っていた。 むしろ、伊吹だからこそ無理な治療法でもできるような気すらしていた。 9 同じ頃病院のロビーで圭介と五十嵐は新しい治療法について話していた。 五十嵐は伊吹の回復を望みながらも、そんな研究段階の治療法を押し付けている辻が自分勝手に見えてならなかった。 辻に新しい治療法を止めさせたいという思いでいっぱいだった。 圭介はどうしてこの状況を黙ってみていられるのかと、腹立たしくも思った。 しかし圭介の立場上、辻に逆らうことは出来ないこともよくわかっていた。 そんな圭介をかわいそうに思い、心から励ましたかった。 人間には夢や愛そして希望があふれているということを伝えたいといっている五十嵐は共にそれを語ってきた圭介に弱音を吐いて欲しくはなかった。 だから五十嵐は精一杯圭介を励まし、治療をやめさせるように辻を説得することを離した。 圭介は五十嵐の言葉に自信をつけ、治療法の再検討を辻に申し出た。 「ほう。 すると高橋さんはこの治療をやめろと。 」 「はい。 」 「理由はなんですか?」 「伊吹ちゃんの身体にかかる負担が大きすぎます。 苦痛に耐えてるあの子を見てると・・・。 第一、この治療法は危険すぎる!」 「危険?そんなものがどこにある。 現にあのクランケは確実に回復している。 あなたは、クランケの回復を望まないんですか?」 「それは・・・。 」 「あなたごとき研修医が口をはさむことではない。 」 「確かに僕は研修医だ。 だけど、僕はいつかあなたを超えてみせる。 世界一の外科医になるんだ。 」 「口だけは一人前ですね。 そんな暇があったら、クランケの様子でも見てきたらどうですか。 」 「言われなくてもそうします。 伊吹ちゃんが心配ですから。 」 そう言って圭介は足早に伊吹の病室へ行った。 ちっ、高橋め、いまいましい。 クランケの身体への負担など、言われなくてもわかっている。 だが、この治療しかないんだ。 この治療しか・・・。 それにしてもあの小娘の眼だ。 妙に気に障る。 苦痛に耐えているときにも変わらないあの眼が・・・。 「薫先生、波田さんが!」 伊吹の急変だった。 辻は慌てて伊吹の病室へ向かった。 10 圭介が病室へついたとき、伊吹は病室で一人苦しそうにもがいていた。 それを見つけた圭介は慌ててナースコールを押し、看護婦と辻を呼んだ。 「伊吹ちゃん、頑張るんだよ!おい早く酸素マスク!もうすぐ先生がくるから頑張るんだよ。 早くしろよ!」 「は、はい!」 「騒がしいぞ!」 病室がパニック状態のさなか、辻は至って冷静に病室へ入ってきた。 圭介は辻に助けを求めるようにいった。 「先生、伊吹さんは?」 「慌てるな、脈拍。 」 「三十六です」 「血圧」 「五十・四二です。 」 「ちっ、高橋さん、オペの用意だ。 それと、君はクランケの家族に連絡して。 」 病室にいる者全員に指示が行き届くと、、「はい!」という返事と共に全員病室を後にしてそれぞれの仕事を始めた。 病室には伊吹と辻だけであった。 伊吹は辻に助けを求めるように手を差し伸べた。 そしてその口元からかすかに「かおる」と呼ぶ声がした。 辻はゆっくりとベッドに近づいた。 伊吹は辻の白衣の端をつかみ必死に何かを訴えようとした。 辻はベッドの端に手をつき、伊吹の顔をじっと見ていった。 「苦しいかい?苦しいだろう。 でもね、もう苦しまなくていいよ。 かわいい伊吹ちゃん。 ありがとう、君は最高のモルモットだったよ。 」 そういうと、白衣をつかんだ伊吹の手を振り払った。 そのとき病室のドアが開いた。 圭介だった。 「薫先生、オペの準備が。 」 「高橋さん、後はあなたに任せますよ。 」 「えっ、ちょっと先生それってどういう・・・」 「聞こえなかったのか。 後はあなたに任せる。 」 「それって、どういうことですか!伊吹ちゃんはもう・・・。 だからって見捨てるのか!」 「高橋さんあなたもだいぶ分かってきたじゃ・・・」 「ふざけるなぁ!みんなあんたを信じてやってきたんだ。 それを・・・。 あんた、患者の気持ちを、伊吹ちゃんの気持ちを考えたことがあるのか!・・どうなんだよ、答えろよ。 ・・あんた、伊吹ちゃんの気持ちを考えたことがあるのか!この子はあんただけを・・・!」 「離せ!」 「あんたって人は、どこまでこの子を苦しめるんだ。 」 「死ぬまでだ。 」 辻は何の名残もなく伊吹に背を向け病室を出て行った。 それとすれ違いに看護婦が入ってきた。 「高橋先生、波田さんのご家族と連絡が取れません。 」 「そうですか。 オペは僕が担当します。 早く用意して。 」 圭介は憤りを感じながらも、今は伊吹のことだけを考えることに徹した。 ただ助かって欲しいと祈りながらオペ室へむかった。 11 辻の様子をうかがいに珍しく玲子が辻に会いにきた。 何かを訴えたいような、それでいて無表情な顔で辻のほうを見て言った。 「愛していたのにね。 いや、愛していたからかしら。 」 「何のことだ。 」 「あなたは波田伊吹を愛していた。 」 「まったく。 お前まで何を言っているんだ。 ばかばかしい。 」 「事実でしょう。 あなたの彼女に対する感情は・・・」 「お前なら知っているはずだ。 俺がどんな人間か。 」 「ええ、知っているわ。 辻 薫。 光を持たない男。 」 「そうだ。 俺は闇だ。 知っているなら・・・」 「そして私が愛した男よ。 」 「俺が愛せるのはあの人だけだ。 」 「そんなにあの子に勝ちたいの?」 「そうだ、闇が光にな。 」 12 「どうしてなんですか!薫先生!」 玲子が辻の前から去った後、五十嵐はものすごい形相で辻のところにやってきた。 「あなたこんなに遅くに大声出して非常識だとは思わないんですか?」 「非常識なのは先生のほうじゃないですか。 伊吹ちゃんの気持ちも考えずにあんな研究段階の治療をして、それで挙句の果てには、様態が急変したら彼女を見捨てるなんて。 伊吹ちゃんはまだ13歳。 これからやりたいことや行ってみたい所だってたくさん会ったはずなのに。 人を好きになったことだって・・・。 彼女の夢はどうするんですか。 彼女の愛は。 あなたは、彼女からそれまでも奪ったんです。 あなたに医者の資格なんてない。 」 「資格があるかないかは、あなたが決めることじゃない。 それに、あなたはあのクランケを見捨てたと思っているらしいが、それは見当違いもいいとこだ。 私は後の処置を高橋さんに任せるといっただけだ。 」 「それが彼女を見捨てたといっているんです。 」 五十嵐の言葉をを聞いて辻はにやりとし、五十嵐のほうを見た。 「ほう、あなたは高橋さんに任せたことを見捨てたといわれる。 つまり、あなたは高橋さんでは無理だと思っていた。 」 「私は圭介先生を信じてます。 」 「なら、どうして。 」 「それは・・・。 」 五十嵐は自分の言ったことに後悔しつつ、口篭もった。 すると辻は大声を上げて笑った後、五十嵐に言った。 「言ってましたよ、彼。 「僕はあなたを越える。 世界一の外科医になるんだ!」ってね。 それがどうだ。 そんな気持ちを知っているはずのあなたが、まるで彼を信用していない。 かわいそうだ。 ははっ。 あまりにもかわいそうだ。 かわいそうな圭介先輩。 はーっはっは・・・。 」 辻の笑い声をさえぎるように、五十嵐は大声で言った。 「かわいそうなのは、あなただわ、先生。 どうしてそんな眼で人を見るの。 「ほう。 私がどんな眼で人を見ているというんですか?」 「光のない眼。 」 「光のない眼?」 「そうよ。 あなたの眼からは、まるで光を感じない。 希望とか夢とか,何かそういう温かいものを感じられない。 まるで・・・。 」 「闇、とでも。 」 「そう、闇。 出会った時から気になっていたんです、あなたのその眼。 どうしてそんな眼をしてるんですか。 」 「そういうあなたの眼も不思議ですよ。 」 「私の眼?」 「なぜそんな眼をするんでしょうね。 でも好きですよ、あなたのその眼。 虫唾が走るくらいにね。 」 辻はそらそうとする五十嵐の目線に無理やり入っていった。 五十嵐は必死に眼をあわさないようにしていた。 そして辻は五十嵐から離れ、遠くを見て言った。 「行きましょうか。 あなた、どうして私がこんな眼をしているのか知りたいんでしょ。 だったら行かないと。 」 「どこへ?」 「ついて来ればわかりますよ。 」 そういって、早足で病室をでていった。 五十嵐は一瞬迷ったが、決心し辻の後を追いかけた。 13 辻と五十嵐が向かったのは精神病棟の玲子のところだった。 玲子は、ここに来ることがわかっていたかのように彼らを迎えた。 「来ちゃったのね。 」 五十嵐は病室の異様な雰囲気に戸惑い、あたりを見回した。 その様子を察して玲子が五十嵐に話し掛けた。 「初めまして。 」 「あっはい。 はじめまして。 あなたは?」 「玲子。 」 「・・あっ、私、五十嵐かおるです。 あなたもお医者様なんですか?」 「ええ。 精神科のね。 あなたのことは彼からよく聞いているわ。 かおるさん。 えっ?・・・ところで薫先生。 どうしてここに?」 「あなたにね、会ってもらいたい人がいるんですよ。 」 「・・・だれですか?」 辻は少し考えてから五十嵐に聞いた。 「あなた、藤山吾郎という名前に聞き覚えはありませんか?」 「藤山吾郎・・・。 いいえ。 」 「なるほど、あなたは何も覚えていないようだ。 ・・・彼、特別病棟の患者でしてね。 彼女が担当医なんですよ。 ま、詳しい話は彼女のほうから。 」 「もう二十年も前のことかしら、1件の交通事故があったの。 」 「交通事故?」 「ええ。 飛び出した子どもをよけようとして、乗用車がガードレールに突っ込んだの。 飛び出した子どもにはけがはなかったんだけど、乗用車に乗っていた男性は瀕死の重傷だった。 その乗用車に乗っていたのが藤山吾郎。 彼の身体は奇跡的に回復した。 だけどね、・・・彼の精神は崩壊してしまったの。 」 「崩壊・・・。 」 「人間としての記憶はおろか、理性や知能まで失ってしまった。 いまでは獣同然だわ。 」 辻は五十嵐をにらみつけるような眼で言った。 「事故のショックでね。 」 「それが私にどういう関係があるんですか?」 「まだ思い出さないのか!彼の乗っていた車の前に飛び出した子供。 それがお前だ。 五十嵐かおる。 」 「その人はどこにいるんですか?」 「見えませんか?ほら、そこにいるじゃないですか。 」 辻が指差すほうを見ると、暗い部屋の隅に人影が見えた。 辻はその方向にゆっくりと歩いていった。 近づくにつれて低姿勢になり、彼の表情もとても優しくなっていった。 「もうこわがらなくて大丈夫だよ、父さん。 僕が守ってあげる。 」 14 五十嵐は驚いて「・・・とうさん?」と聞き返した。 「ええ。 この人は彼の父親なの。 それだけじゃないわ。 かおるさん、あなたの父親でもあるのよ。 」 玲子の思わぬ言葉に五十嵐は動揺を隠せなかった。 「この人には子供が二人いるの。 ひとりは愛人に生ませた子供で、名前は五十嵐かおる、あなたよ。 そしてもう一人は正妻との子供で・・・」 「この俺だ。 」 「でたらめよ!」 「いいえ。 藤山吾郎はあなたの本当の父親よ。 そして辻、いえ藤山薫は同じ日同じ時間に生まれたあなたの兄弟よ。 」 「そんな・・・。 だって私の父さんは私が小さいころ・・・」 「いい加減思い出せ!お前のせいで父さんはこうなったんだ。 そしてお前は自分のトラウマを埋めようと意識にふたをし、あのときの記憶を消し去った。 結果、お前は父さんのことなど忘れ、ぬくぬくと育った。 そしてどうだ。 フリーライターだと?何が夢だ、愛だ。 へどが出る。 ・・・お前が、お前が父さんを殺したんだ!」 五十嵐は泣き崩れ、床に座り込んだ。 もうこれ以上聞く気にはなれず、耳をふさいだ。 しかし辻は、今までの恨みを晴らすかのように憎しみを込めて怒鳴りつづけた。 「俺がなぜ薫と呼ばれているかって聞いていたな。 それは、俺を連れて父さんを捨てた女のせいを名乗りたくなかったからだ。 そして、俺が医者になったのは、父さんを救うためだ。 そしてお前に復讐するためだ。 」 辻の罵倒がとぎれ、しばらく沈黙が続いた。 しばらくして玲子が口を開いた。 「間違いだった。 ・・・やっぱり間違いだったのよ。 ・・・あなた達は分かれて生まれてはいけなかった。 」 「分かれて産まれた?」 「本来人間は光と闇を持ち合わせた未完成な精神体。 なのに、あなた達は光と闇のどちらかしか持っていない。 」 「何が言いたいんだ。 」 「今のあなた達見ていられないもの。 自分の持っているものをかたくなに信じてて、もろくて傷つきやすい・・・。 」 そのとき,ずっとうずくまっていた吾郎が、ゆっくりと起き上がり、泣き崩れるかおるのほうへ身をよせた。 15 「何してるの父さん!どうしてそんな奴に・・・。 」 そういうと薫はかおるの身体を突き飛ばし、吾郎に近寄ろうとした。 しかし吾郎は薫におびえ、かおるに助けを求めるようにしがみついていった。 「なぜだー!」 「・・・それはあなたが藤山吾郎から生まれた闇だからよ。 」 玲子は言った。 「そしてかおるさんが光だから・・・。 人間は、両方を持ち合わせてはいるけれど、光の持つ優しさ、温かさに惹かれるものなのよ。 だからあなたは、光のかおるさんには勝てないの。 」 そう聞くと薫は玲子を突き飛ばし、落胆したような眼でその場に崩れ落ちた。 そのときだった。 どこからともなく幼い少女の声が聞こえた。 三人があたりを見回すと、そこには伊吹がいた。 「そんなことないよ。 先生は闇なんかじゃないよ。 ただ愛されたかっただけなんだ。 私、先生に会えてよかった。 先生は闇なんかじゃないよ。 私は先生を愛してる。 」 「伊吹ちゃん?」 「消えろー!」 そう辻が叫ぶと伊吹はにっこりと笑みを浮かべながら、静かに消えていった。 伊吹の薫を思うきもちが、精神体となって現れたのである。 かおるは言った。 「かわいそうな人。 あなたはそんなにも愛してくれるたった一人の人を失ってしまった。 かわいそうな人・・・」 かおるはそっと薫の方に手を置いたが、薫は即座に振り払い下を向きつぶやくように言った。 「何が愛だ。 ・・・おれは闇だ。 ・・・そんな感情はない。 」 「だったらどうして父さんを愛したの?伊吹ちゃんを愛したの?」 二人のやり取りを見ていた玲子が言った。 「やっぱり、あなた達は分かれて産まれてはいけなかった。 光だけじゃ、闇だけじゃ、生きていけない・・・。 」 「俺たちは分かれて産まれてはいけなかった。 」 「戻そう、すべてを始まりに・・・」 薫とかおるが、そういうとまばゆい光が部屋の中を包み込み、吾郎と玲子を残して、二人はその光の中へと消えていった。 二人の生命は一つとなり、玲子の子宮の中へと戻され、新しく生まれ変わるのである。 玲子は愛しそうにお腹をさすり、言った。 「みんなあなた達を忘れてしまうわ。 覚えているのは私だけよ、かおる。 すべてが最初から始まるの。 」 16 二人が消えてから十年の月日が流れた。 病院ではいつもと変わらない生活が続けられている。 その中で、高橋圭介は独立し、小さな個人病院を開いていた。 今年で40歳を迎える圭介は研修医を卒業し、医師として大学病院に勤務していたが、院長との意見の不一致により、退職したのである。 圭介は「かおる」達がいなくなってからずっと、伊吹の墓参りは欠かさなかった。 伊吹の死にいささかの疑問をもちながら今年も墓参りに行ったのであった。 圭介は墓前にしゃがみこみ、伊吹に話し掛けた。 「伊吹ちゃん、久しぶりだね。 あれから十年、ここで伊吹ちゃんに会うのも十回目になるね。 僕は今年独立したんだ。 ちっちゃな医院だけどね。 やっぱりああいう大学病院は僕には合わないよ。 ・・・僕ももうすぐ四十だ。 すっかりおじさんになっちゃっただろ。 だけどね、この歳になって、何か大切なものを忘れてきたような気がするんだ。 伊吹ちゃんといた頃に・・・。 それが何なのか、ここに来たら思い出せそうな気がするんだけど・・・。 」 圭介はそう言うとしばらく墓前にたたずみ、伊吹との無言の会話を楽しんだ。 圭介の頭の中には、伊吹が亡くなった頃の不鮮明な記憶が繰り返し流れていた。 しばらくして我に返った圭介は、伊吹にさよならを告げ、立ち去ろうとした。 墓と墓の間の狭い道を歩いていると、車椅子に乗った老人と、それを押す三十代後半とみえる女性が向こうから歩いてきた。 圭介は道の脇に寄り、二人を通した。 二人は軽く会釈をし伊吹の墓前に立つと、しばらく無言でたたずんでいた。 それを見て圭介は思わず二人に声をかけた。 「波田伊吹ちゃんのご縁の方ですか?」 「ええまぁ」 多くは語らない口調で女性は答え、圭介の後ろのほうを見て言った。 「そんなとこで遊んでないで、早くいらっしゃい、かおる。 」 「はーい!」 「かおる?」 元気のいい返事が聞こえたかと思うと、まだ幼い少女が両手いっぱいに花を持って走ってきて、圭介にぶつかった。 持っていた花を落とした少女は一生懸命拾い集め、拾い終わると満足げに満面の笑みを浮かべていた。 その少女を見て、圭介は驚いた。 伊吹にそっくりだったのである。 「伊吹ちゃん!」 驚きを隠せず、思わず伊吹の名を呼んでしまった。 少女は怪訝そうな目で圭介を見、 「私、かおるだよ!」 といって、二人のもとへ走って言った。 ーおわりー 「ためいき」 藤井宣樹 松田憲司は今日も会社の同僚二人といきつけの飲み屋で飲んでいた。 松田憲司は電気会社に勤めるサラリーマンで、今年五年目の平社員だった。 結婚も三年前にしておりこどもも一男一女をもうけていた。 同僚は二人とも同期の入社で、その年に入社したのはこの三人だけだったので妙に気が合い、よくのみにいったり遊んだりする仲だった。 そのうちの一人は男で、名前は金城誠。 身長は195センチもありなかなかのハンサムなのだが、女性と付き合ったことはないとのことであった。 もう一人は女性で、名前は出原佳子でこちらは美人というよりは、顔に幼さが残っており、かわいいといった表現が似合う女性である。 しかし、金城とは違いこれまでに何人もの男性と付き合ってきたみたいである。 「そろそろ帰らない。 」 出原は二人に声をかけてきた。 確かに十一時を回り松田もそろそろ帰ろうかと思っていたところであった。 「おいおいまだ十一時じゃないか。 もう一軒別にいい所があるからそこで飲みなおそうじゃねえか。 」 いつもになく金城は飲んでいて、すでにちゃんとしゃべれていなかった。 まー飲み過ぎているのは、上司に今日ひどくしかられたせいもあるのだが。 「今日はもうおまえ飲みすぎや。 電車もなくなるから帰るぞ。 」 「うるせい。 今日はとことんまで飲むんじゃ。 おまえらも付き合え。 」 一度言い出すと、人の話しを聞くやつではなかった。 「はいはい。 わかった、わかった。 おまえの言うとおりにしてやるからわめくな。 出原、悪いけど付き合ってくれるか。 」 「もう。 仕方ないわね。 」 松田と出原は顔を見合わせて、やれやれといった表情をした。 店を出てからも金城を両側から二人が支えてやらないと歩くこともできない状態だった。 「金城。 やっぱり今日は帰ろう。 」 心配して松田が言うと、金城はわめき散らす始末で、まったく手に負える状態ではなかった。 やっとの思いで着いた店は、三人でよく行くスナックだった。 「どうせこんなことだろうと思った。 」 出原はさっきからため息ばかりついていた。 スナックで飲んでいるときも、金城は会社の上司の悪口ばかり言って飲んでいた。 それを聞いている、松田と出原は本当にうんざりしていた。 深夜も二時を回り、さすがに金城もテーブルの上で眠ってしまった。 「まったく世話の焼ける人ね。 」 「ああ。 せやけどこのままにしておくわけにもいかんやろうから、とりあえずこいつを起こして、どっかのホテルに寝かしにいかなしゃーないな。 」 「そうね。 」 「とりあえず、店を出てホテルを探そう。 」 二人は店を出てホテルを探したが、この近辺は普通のホテルはなくラブホテルばっかりだった。 「泊まれるところはないわね。 」 「タクシーでもあればいいんやけどなー。 」 この辺はなぜだか分からないが、ほとんどタクシーは通らない所なのであった。 「困ったな。 もうこいつをこれ以上連れまわすことはできないな。 仕方ないな、そこのラブホテルに入ろう。 」 「ええ。 でも三人で入れるかしら。 」 「うーん。 大丈夫、入れるやろ。 どうしてもあかんかったらそん時は悪いけど、二人で泊まったってくれるか。 せやけど、大丈夫やとは思うけどなんかあったらあかんから、なるべく三人でとまったほうがいいと思うんやけどけど。 あっ、別に変な意味でとらんといてや。 そういう意味で言うたんと違うからな。 」 「わかってるわよ。 」 そう言いながらも二人とも顔を赤らめて、入るのをためらっていた。 「よし。 行くか。 」 松田は吹っ切るように言った。 「ええ。 」 出原は声がかすれていた。 部屋は305号室で、一泊7800円の値段にしてはなかなかいい部屋だった。 二人は金城の服を脱がしてベッドに寝かせて、一息ついた。 部屋に入ってしまえば二人ともだんだん落ち着いてきて、会話が出だした。 「なんか落ち着いたらのどが渇いてきちゃった。 松田さんもなにか飲む。 」 「ありがとう。 お茶がええな。 」 「ウーロン茶と麦茶と緑茶があるけど、どれにする。 」 「じゃあ、麦茶で。 」 「残念でした。 麦茶は私が飲むから松田さんはウーロン茶にしなさいよ。 」 「えっ。 何やねん、それやったら聞くなよ。 」 二人は楽しそうに笑い出した。 松田はお茶を一気にのどに流し込んだ。 とたんに酔いが覚めだしてきた。 「ねえ。 松田さんは奥さんとはうまくいってるの。 」 不意に出原は聞いてきた。 「何だよ、いきなり。 」 「だって、ちょくちょく私たちと夜遅くまで飲んでることだってあるし、お子さんだってまだ小さいんでしょ。 」 「そらまーそうやけど、うちの嫁はわがままでヤキモチ焼きやけど、その辺のことはだいたい理解してくれてるみたいやからな。 泊まって帰ったりしたら、帰ったとき子供のほうが、うるさいな。 」 「ふーん。 そうなんだ。 」 「それより、君のほうはどうなんだい。 」 「えっ、何が。 」 「結婚だよ。 君も僕と同じ年だから今年で28だろ。 そろそろ結婚を考えてもいいんじゃないか。 ボーイフレンドもいっぱいいることだし。 」 「確かにボーイフレンドはいっぱいいるわよ。 でも、私とつりあう男性がなかなかいないのよ。 」 「ハハハ。 せやけどあんまりより好みしてると、結婚する機会失うで。 」 「失礼ね。 じゃあ、松田さん、私をもらってよ。 」 意地悪く笑いながら言った。 「いきなり何をいいだすんや。 」 「松田さんが意地悪いうからよ。 」 「こら一本とられたな。 」 また二人は笑い出した。 「それはそうと今夜これから、どないしょうかな。 」 「私は、今夜はここに泊まるわ。 もう疲れたし、明日は会社休みやしね。 」 「そっか。 どうしょっかな。 」 「松田さんも泊まりなさいよ。 今から帰っても4時過ぎになるわよ。 奥さんにはもう泊まるって言ってあるんでしょ。 」 「うーん。 せやな。 今日は泊まるか。 じゃあ君はソファーで寝なよ。 僕はここで寝るからさ。 」 「それは悪いわ。 」 「まーいいじゃないか。 まさか嫁入り前の娘をこんなところで寝かすわけにもいかないじゃないか。 」 「そう。 じゃお言葉に甘えてソファーで寝かせてもらうわ。 」 「ああ。 じゃお休み。 」 「お休みなさい。 」 それから二人はしばらく、話していたがいつのまにか二人とも寝てしまっていた。 「松田さん、松田さん。 」 松田は出原に起こされて目を覚ました。 「今何時だい。 」 「六時よ。 」 「そうか。 ちょっと待っててくれよ。 」 そういうと松田は顔を洗いに行った。 「それじゃあ、とりあえず君から出ていってくれるかい。 2人一緒に出ていって怪しまれるといけないから。 それと、金城はまだ寝かして置こう。 あとここのお金もこいつに払わせればいいやろ。 」 「そうね。 それじゃあまた明日会社で会いましょう。 」 「ああ。 じゃ、お疲れさん。 つきあわせて悪かったね。 」 「そんなことないわ。 疲れたけど楽しかったわ。 それじゃあ。 」 「ああ。 気を付けて。 」 そういうと、出原は出ていった。 出原が出ていった後、松田は一時間ほどテレビを見て部屋を後にした。 部屋を出て通路を曲がった時思わぬ人物に出くわした。 「あっ。 」 「あっ。 」 出会ったのは、自分の妻の姉だった。 「ねえさん。 」 義理の姉は隣に男性を連れていた。 その男性は義理の姉の夫ではなかった。 松田は姉をその男性から引き離して、 「ねえさん、これはいったいどういう事なんですか。 この事を幸二さんは知っているのですか。 」 その頃には、義理の姉もだいぶ落ち着いたらしく、 「何言ってるの。 憲司さんだって今まで女の人と一緒にいたんでしょ。 女の人は先に帰したみたいだけど。 でも、大丈夫よ。 典子には黙っていてあげるから。 」 「何を言うんです。 僕はそんなことしてませんよ。 」 松田はかなりむきになって言った。 その事がおかしかったらしく、義理の姉は笑い出した。 「こんな所にいて何もなかったなんて誰が信じるもんですか。 」 「何もないといったらないんです。 とにかく、僕はこのことを幸二さんに言いますからね。 」 「そっちがそう出るならこっちも典子に言うわよ。 」 「どうぞご勝手に。 」 しかし、義理の姉は少しもあわてた風もなく、 「そう。 でも、典子はどちらの言うことを信じるかしらね。 」 自信満々に言った。 「何をばかな。 」 しかし、そう言われると、松田も自信が持てなかった。 妻の典子は、この姉とは特に親しく、喧嘩をしたりするとすぐに姉の所に行って、しょっちゅう愚痴をこぼすのであった。 そして、帰ってくる時は、いつも機嫌を直して帰ってくるのであった。 「典子は僕の言うことを信じるさ。 」 「そうかしら。 」 相変わらず、自信満々で言ってきた。 「何なら試してみる。 」 その時、この義理の姉には勝てないとはっきり悟った。 「フフフ、冗談よ。 これからもお互い仲良くしていきましょ。 」 そういうと義理の姉は、男のところに歩いていった。 「ハー。 」 松田は深い溜め息をついた。 典子にこのことをいおうと一瞬考えたが、すぐにその考えは消えた。 「俺は、あの女性には一生勝てないな。 」 松田はつぶやいた。 (デモ、あの人を敵に回さない限り、いいひとだし。 まっいいか。 ) 今度は心の中でつぶやいた。 」何でもよく聞く優等生私らしさの「らしさ」って何? 小さいころから、そうだった。 親の言うこと、先生の言うこと、素直に「はい」って。 それでいいと思っていた。 それでうまくやってきた。 みんなと一緒のことをして、そこで一等をとればいい。 少しでも上を目指して、上へ、上へ。 その上には何がある?ほんとに一等がほしいの?ふと、立ち止まった高三の夏。 違う、違う「私」がしたいと思うこと、「私」にしかできない何か、みつけるためにここ大学にやってきたのだから。 ・ 何もかもヤ嫌なことみんなしまいこみ忘れることで身を守ってる 大学に来て、早三年。 まだみつからない「私らしさ」。

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【フリーBGM】追いかけっこキャッハー【11歳の耳コピピアノ】

追い かけっこ キャッハー

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